【感想】ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」ユヴァル・ノア・ハラリさんの章。”ウイルスの流行にだけ関心を持つべきではない。政治状況にも焦点を当てるべきだ”

2020年4月11日(土)のETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」を録画して少しずつ観ている。

番組の情報はこちら↓
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/PVVG5MVMGG/

「緊急対談 パンデミックが変える世界 〜海外の知性が語る展望〜」
パンデミックとなった新型肺炎。都市の封鎖や大量死が連日報じられている今、人類は大きなチャレンジを突きつけられている。世界はどう変わるのか。人類は今後どこに向かうのか。歴史学、政治学、経済学の各分野で独自の思想を展開する世界のオピニオンリーダーたちに徹底的に尋ねていく緊急特番。【出演者】 経済学者・思想家:ジャック・アタリ 国際政治学者:イアン・ブレマー  歴史学者・『サピエンス全史』著者:ユヴァル・ノア・ハラリ  キャスター:道傳愛子

3人の「知性」が紹介されるが、私の理解力にはボリューミーすぎて、一人分ずつ観るのが精一杯。昨日はユヴァル・ノア・ハラリさんのパートを観た。イスラエルの歴史学者で世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者。非常に興味深かったのでこちらに書き残したいと思う。

今回のインタビューは2020年4月7日に収録されたもの。新型コロナウイルス(COVID-19)がもたらしている今回の危機は「民主主義にとって大きな挑戦であり、私たちがどんな社会で生きていくことになるのか重要な選択を迫られる」というのがハラリ氏の考えのようだ。

まず番組から、個人的に興味深いと思った部分を以下に抜粋する。

【現在の世界の状況について】
・このような危機的状況において、自由市場にだけ頼ることはできない。
・一部の国では、コロナ危機が経済システムと雇用市場をより良いものに作り変えるよい機会となる。
・政治的選択の選択肢が数多くある。メディアと一般人は、ウイルスの流行にだけ関心を持つべきではない。政治状況にも焦点を当てるべきだ。

【コロナウイルスと権力について】
全体主義的な体制が台頭する危険がある。例えばハンガリー。
※ハンガリーでは、非常事態法の可決によって首相の権限が拡大され、議会の承認なしで、非常事態宣言を無期限で延長できるようになった。ハラリ氏はこれについて「形式的にはまだ民主国家だが、オルバン政権は独裁的とも言える権力を握った」と言った。
・ハラリ氏の母国イスラエルでも、ネタニヤフ暫定首相が「コロナウイルスと戦う」という口実で、野党が過半数を占める議会を閉会しようとした。国内外からの批判が多く、断念されたが、独裁国になる危険があった。
民主主義は平時には崩壊しない。民主主義が崩壊するのは決まって緊急事態のとき
・イスラエルでは、 第1次中東戦争のあった1948年に出された緊急事態宣言がまだ続いている緊急措置が適用されるのは危機の間だけで、危機が去ればいつも通りに戻ると思いがちだが、それは幻想。緊急事態だからこそ民主主義が必要。「チェック&バランス」がされなければならない。権力に繋がる人だけでなく、国民すべてに奉仕させるために、政府を監視することが必要。

【監視について】
・感染拡大を食い止めるために新しい技術を利用することには賛成。しかし一方的に政府が監視するだけでなく、一般市民にも ①データの透明性の確保 ②政府の決定における透明性の確保 という2つの方法で力を与えるべき
・国民が進んで協力すれば、教育や個人的な動機付けの方が、監視よりもはるかに効果的。例えば手洗いをする動機づけとして「すべてのトイレに警官を配置して、手洗いをしない人を見張る」よりも「手洗いの有効性を伝えて、自主的に手洗いをするように促す」ほうが効果的。そのためには教育と、政府が提供する情報を信頼できることが必要。
・政府が国民の監視をするだけでなく、国民が政府を監視する側面が重要。政府が腐敗しないように監視する。良い政策に転換するように見張る。
独裁国家にあっては監視が一方通行で、政府が国民を監視して、政府の決定は国民から隠し、政府から国民に伝わる情報はない。それはとても危険。

【信頼を回復するために】
科学と研究機関への信頼が重要。今、ほとんどの国の人々が、科学が最も信頼できる拠り所だと感じて、疫学の専門家による感染症の情報を真剣に受け止めている。気候変動の研究者が温暖化について警告したときも同様の信頼を持って受け止めるべき

【市民の側にはどのような行動が求められるのか】
・このような状況では市民にも多くの責任が生じる。
<情報や行動について>
信じるべき情報を慎重に吟味し、科学に基づいた情報を信頼すること。そして科学的な裏付けのあるガイドラインを実行すること。(市民が科学的な指針に従えば緊急時に独裁的な手法を取る必要性が少なくなる)
<政治状況について>
・政治状況に目を光らせておくこと。今この瞬間にも極めて重要な政治決定が行われている。その決定に参加し、政治家たちの行動を監視することがとても重要

【長い人類の歴史から見て、今回のパンデミックが持つ意味とは】
・もし自国優先の孤立主義独裁者を選び、科学を信じず陰謀論を信じるようになったら その結果は歴史的な大惨事となる。多数の人がなくなり、経済は危機に瀕し、政治は大混乱に陥るだろう。
・グローバルな連帯や、民主的で責任ある態度を選び、科学を信じる道を選択すれば、 例え死者や苦しむ人が出たとしても、後で振り返れば「人類にとって悪くない時期だった」と思えるはずだ。

下記は私の感想。

ハンガリーは「形式的にはまだ民主主義」というのを聞いてドッキリした。たしかに「民主主義」を標榜していても、実質的に一部の政治家が独善的に統治するという状況は有り得る。日本もそうなりかけているんじゃないのか。

「民主主義が崩壊するのは決まって緊急事態のとき」というのも胸騒ぎがする。今、これを書いている2020年4月21日は、7都府県に「緊急事態宣言」 が出されてちょうど2週間。その後、宣言が拡大されて、いまや全国的に不要不急の外出の自粛が求められているが、テレビやネットでは「街にはこんなに人がいた」と、外出を自粛していない人を取り上げるニュースがちょくちょく流れている。ときにはコメンテーター役の芸能人が「もっと強制的に外出を禁止できないの?」というようなことを言う。彼らが、その制度が権力者に良いように利用されてしまう可能性を考慮しているとは思えない。ハラリ氏が言ってるのは「コロナが落ち着くまでの間」「少しでも安心できるように」「早く収束するように」というのは幻想で、それが独裁政権の始まりになるということだろう。(法律で外出する権利を奪うのではなく、休業補償や協力金を制度化するのは良いと思う。)

個人的に、 新型コロナ(COVID-19)のパンデミックを契機に、社会にも、所属している団体にも「おかしい」と感じたり、憤りを感じたりすることが増えた。例えば、アベノマスク・・・色々お金の使い方が考えられる中で、とても最善の施策だったとは思えない。医療機関に配布するサージカルマスクの調達や製造に466億円をストレートに投じたほうがよほど効果的だったんじゃないだろうか。マスクの発注先に利権が絡んでいるのでは、という疑いも生じているが、現時点ではいまだメーカー名も明らかになってない。

おそらくコロナ危機を契機に、平時には見えにくいものが露骨になっていると感じている人も多いのではないだろうか。例えば、政府が国民の生活を全然大切に思っていないこと。「お肉券」「お魚券」「旅行券」など、利権ばかりの呆れた施策が次々出てくること。医療現場の物資不足や病床不足など、早くから予測できた事態に有効な施策が打たれないこと。どうやら小資本の企業はつぶれれても良いと政府は思っているらしいこと。所属する組織内での意思決定プロセスの歪み。勤務先が従業員のことやCSRをどれだけ真面目に考えているか。

「ひどい!」と憤りを感じることは、落ち着いて考えてみると「普段からそうだった」と思うことだったりする。ただ、今のこの時期だから濃縮されて、露骨に見えてきているだけだ。うすうす見えているけど見ないふりをしてきたこと、文句を言うのが面倒だからスルーしてきたこと、おかしいと思いながらも「仕方ない」と受け流してきたこと。

ハラリ氏の言葉から刺激を受けて、たぶん今は市民が賢さを発揮して、おかしいことにはおかしいと文句を言うべきときなんだと勇気をもらった。もちろん市民には自分を含んでいる。日ごろから賢さを培ってこなかった自分が残念だけど、自分の能力に自信がなくてもやっていくしかない。

コロナが早く収束すれば良いなと思っているけれど、今見ているものを簡単に忘れるようではありたくないとも思っている。

【朗報:番組の続編(?)があるらしい!】
3人の「知性」の中でも、特にハラリ氏のパートには多くの反響があったそうで、今週末のETV特集では1時間に及んだハラリ氏へのインタビューのほぼ全体を紹介してもらえるとのこと。これは楽しみ。

4月25日(土)午後11:00~午前0:00(60分) (Eテレ)
「緊急対談 パンデミックが変える世界 ユヴァル・ノア・ハラリとの60分」

パンデミックのただ中で今、何を考えるべきか。先日ETV特集の中で行った海外の知性への連続インタビューの中でも、特に大きな反響が寄せられたのが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリからの警告だった。今回はこの反響にお答えし、1時間に及んだハラリ氏へのインタビューのほぼ全体をお送りする。世界が注目する知性からの多岐にわたる現状分析と警告。そしてあるべき未来を手にするための渾(こん)身のメッセージ
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/QNYPWWZ3WQ/