【感想】ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」イアン・ブレマーさんの章。”犬を飼うべきだ。ばかばかしいと思うかもしれないが実効性がある”

2020年4月11日に放送された、ETV特集「緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~」を見た。3人の「知性」が登場して今回のコロナ危機について語る番組。
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/PVVG5MVMGG/

 1人目は、アメリカの国際政治学者イアン・ブレマー氏。 10年近く前から「21世紀は世界を主導するリーダーが不在の ”Gゼロ”の時代である」として、 リーダーなき世界が抱えるリスクを警告してきたのだそうだ。「今人類は大きな岐路に立っている」と語った。(4月2日収録とのテロップあり)

個人的に興味深かった部分を紹介。

【今回のパンデミックと世界の状況をどう読み解くか】
・今回のパンデミックは、指導者なき 「Gゼロ世界」で私たちが経験する最初の危機である。その結果として、この危機に各国がバラバラに対応し、協調性が欠けている。アメリカがリーダーシップを握り、他国が協調した「9.11」や2008年の金融危機とは明らかに異なる。アメリカのリーダーシップはもはや存在しない。今後、世界秩序が変化するだろう。
・豊かな国は 経済的影響に対応する資力があるが、新興国や貧しい国は深刻な影響を受ける。加えて今石油戦争が起こり原油価格が下落している。原油で稼ぐ国から深刻な社会不安が広がることは容易に想像できる。

【国際社会の見通しについて】
・  10年近く前「自国が第一」という Gゼロ世界に向かう流れを指摘した。今年のはじめ、世界のトレンドとしては地政学的後退、景気後退、グローバリゼーションの分裂という現象が複合的に起こっていた。分裂はまずアメリカと中国のテクノロジーの分野で始まった。今後サプライチェーン、製造業、サービス業に広がるだろう。サプライチェーンが機能しなくなることに備えて消費者に近づけたいと考え、アメリカやヨーロッパ、他の国でもサプライチェーンを国内に移すケースが増えるだろう。
・この先、人類は地球規模の危機に対して以前のような強さを持たないだろう。例えばこの数週間気候変動は話題になっていない。グレタ・トゥーンベリさんは自主隔離となり、今気候変動は話題にもならない。サイバーセキュリティ、非対称(戦争)の脅威、AI、バイオテクノロジーの倫理問題にはグローバルな対応が必要だが、今それがなくなっている。民族主義やポピュリズムが蔓延し、問題の対応が困難になっている。

【今後の米中関係、世界秩序について 】
・5G、AI、クラウド、ビッグデータ、監視技術といったテクノロジーの分野では米中の分離が進み競争が激化している。今後サプライチェーンや製造業、サービス業に波及すれば米中の相互依存は弱くなる。アメリカは今回の危機の対応について中国非難を強めている。今後米中関係が悪化する可能性は大きい
・中国は世界中に医療チームを派遣し、多数のマスクと検査キットを提供している。特にアメリカと同盟関係にありパンデミックの中心であるヨーロッパで積極的だ。今回の危機が収束した時に、世界で中国の存在感は確実に大きくなるだろう。
・今後、国家間でも各国内でも、格差が大きく広がるだろう。強く豊かな国は持ちこたえるが、貧しい国々は大きな打撃を受ける。

【この危機を乗り切るために、市民・社会・個人のレベルで、社会のあり方や私たちの生き方を考え直す必要があるか?】
犬を飼うべきだ。毎朝瞑想するのも良い。犬はいい。一緒にいると気持ちが落ち着く。ばかばかしいと思うかもしれないが実効性がある。
・いつもと違うことをする必要がある。人間性を失ってはいけない。9.11は恐ろしい出来事だったがニューヨークは団結した。しかし今回、人々はアパートの中に安全を求めて人間性が奪われている。
人は社会的動物で繋がりが必要。スクリーン上や仮想現実では不可能。国際宇宙ステーションで1年過ごした宇宙飛行士の精神的ダメージと同じことが今世界中の数百万・数千万の人々に起ころうとしている。この先個人レベルで対処する方法が必要になるだろう。

以下は私の感想。

個人レベルでの取り組みについて「犬を飼うべきだ」には意表を突かれた。インタビュアーの道傳愛子キャスターも「どういう意味ですか?」と問い返していた。ソーシャル・ディスタンスが求められ、人と集まって痛みを分かち合うことが困難になっている今、瞑想や犬を飼うことなど、人間性を保つために実効性のある取り組みが必要だという意味らしい。実際、外出禁止が続くニューヨークでは急激なペットブームが起きているらしく、犬猫の「里親」募集に普段の10倍もの申し込みがあるというニュースが3月下旬に流れていた。

それにしても「Gゼロ」だの「米中対立」だの大きな視点の話をした後に、急に「犬」「瞑想」とは、ずいぶん細かいレベルの話だと思う。これはどう捉えるのが良いんだろう? 高ストレス下でもやけにならず、理性を保ち、冷静な判断ができる市民であれということだろうか。

サプライチェーンの国内回帰は、日本でもぜひ実現してほしいと思う。今回の危機を機に、中国への過度な依存は(ある程度は)必然的に見直されていくと思うが、同番組の中で ジャック・アタリ氏が「今の状況は私がポジティブ経済と呼ぶものに向かうとても良いチャンス」と語ったように(https://fukurounoie.com/2020/04/23/501/)、生活に欠かせないものの安定的な確保に重点を置いて、長期的な視点で産業の構造を考え、政治や経済を転換していくきっかけになってほしいと思う。簡単なことではないとしても。

米中関係の悪化の問題。アメリカに「リーダーシップ」がないとして、中国が代わりに「リーダーシップ」を取れるとも思わない。イアン氏がGゼロを提唱した10年前?あたりから、世界はより流動的な方向へ、ある意味では不安定に向かっていて、今回のコロナ危機で加速するということだろうか。

今まさに直面しているパンデミックの最中だけでなく、今後の不安定な世界情勢の中で、個人の中で確実なものを求めたい気持ちが高まり「犬を飼う」「瞑想する」という対処法が有益なものになることを、ブレマー氏は示唆しているのかな。

ブレマー氏の意図するところは(おそらく前提となる世界情勢の知識に欠けるため)私には理解しきれないところもあったのだが、同じ番組内で紹介されたハラリ氏やアタリ氏の言うところと併せて考えると「人間性を失わない(分断に走らない、協調する)」「賢い市民であれ」「世界の急激な変化に備えよ」ということなのではないかと思う。