「ぐでたま」との再会

「ぐでたま」というのは数年前、勝手に野良猫につけたあだ名である。朝、夫が出勤するときにアパートのドアを開けると、日の当たる隣家の屋根で、茶白の猫がグデッと寝ている。「あの猫、今日も寝てる」を繰り返すうちに情が湧き、いつしか「ぐでたま」と呼ぶようになった。

 時折、夕方「ぐでたま」が歩いているのを見かける。「ぐでたま!」「ぐでちゃん!」と呼びかけても、実に冷たい。逃げるわけではないが、終始ツーンとしてこちらを見ない。カメラを向けても、満足に撮れた試しがなかった。

 今年の5月、夕方歩いている「ぐでたま」を見かけた。いつものように「ぐでちゃん!」と呼びかけると、足を止めて応えるように「ニャー、ニャー」と鳴いた。初めてカメラ目線の「ぐでたま」を撮ることができた。「ぐでたま」の写真を改めて見ると、老婆のように頬がこけていた。

 夏は凄まじい暑さだった。容赦なく照りつける日差し、夜中でも下がらない気温。人間でも過酷な都会の猛暑に、野良猫たちはどう対処しているのだろう。「ぐでたま」は姿を見せなくなり、秋になると「ぐでたま」の指定席だったはずの屋根に、新参のブチ猫が座るようになった。

 「ぐでたま」は猛暑に耐えられず、死んでしまったんだろうか。「野良猫 寿命」と検索したら、3~5年だという。「ぐでたま」との出会いから、ちょうどそれくらい経っている。あの写真は、死期を悟った「ぐでたま」が、最後に一度だけ撮らせてくれたんだろうか。もしかしたら、もう二度と会えないのかもしれない。日を追うごとに「ぐでたまは死んだ」という仮説は確信に変わっていった。

 すっかり寒くなった師走の昨日、近所の商店街を歩いていたら、なんだかしきりに「ニャーニャー」と声がする。そのまま通り過ぎてしまいそうだったが、ハッ!と気づいて鳴き声のほうを見ると、見覚えのある茶白猫が一瞬見えて、すぐに物陰に隠れてしまった。

 「もしかして、ぐでちゃん!?」「ぐでちゃんだよね?」と声をかけると、物陰から逃げるでもなく、後ろを向いている。どうにか撮った写真にはお尻だけが写ったが、このボサボサの毛並みは「ぐでたま」で間違いない。その場所は居酒屋の店先で、雨風をしのげるスペースが作られ、お水や餌をもらっている雰囲気だった。「ぐでたま」無事に生きていたんだな。ほんわかと嬉しい夕方だった。

ぐでたまのお尻の写真